全国都市問題会議『文化芸術・スポーツが生み出す都市の魅力と発展』

全国都市問題会議は全国市長会等が主催する会議で、全国から市長・地方議員・自治体職員が集まり、テーマに沿った議論を行います。
今年のテーマは「文化芸術・スポーツが生み出す都市の魅力と発展」。文化芸術・スポーツは、個人やグループ等がそれぞれ行うものですが、それをまち全体の魅力として生かしていく手法や市民参画の方法など、とても興味深い議論がありました。
福生市ではどのように生かせるのか考えていきます。

八戸ブックセンターは、書店機能を持ち合わせた公共施設です。店内には様々な椅子があり、ゆっくり本を選ぶことができます。

八戸ブックセンター内

八戸ポータルミュージアムはっち内。地元の伝統文化や地域のアーティストの作品が展示されています。市民の居場所にもなっています。

八戸まちなか広場マチニワ内。自由に使えるイスとテーブルが設置され、多くの市民がくつろいでいました。

八戸まちなか広場マチニワ内に設置されたシンボルオブジェ「水の樹」。

 

第85回全国都市問題会議報告

1、会議日程  令和5年10月12日(木)から13日(金)

2、会場    青森県八戸市 八戸公会堂・公会堂文化ホール

3、主催    全国市長会、(公財)後藤・安田記念東京都市研究所、(公財)日本都市センター、八戸市

4、協賛    (公財)全国市長会館

5、テーマ   文化芸術・スポーツが生み出す都市の魅力と発展
「文化芸術」と「スポーツ」は、古来より人々の生活に密接にかかわり、想像力と感性を育むとともに、人々の心身両面にわたる健康を促進し、個人の生活に活力 と潤いをもたらし、人生を豊かなものにしてきた。さらに今日では、都市の魅力の向上や持続的な発展にとっても欠かすことのできない要素であると考えられるようになっている。各都市が変革の時を迎える中、文化芸術・スポーツが持つ「都市の活力を生み出す力」と、その力によってもたらされる「都市の魅力と発展につなげる方策」について考察する。

6、行政視察
市民の創造、想像、感性を育む文化芸術拠点
視察先・八戸ブックセンター、マチニワ、八戸ポータルミュージアムはっち、八戸市美術館

第1日目 10月13日(木)

●基調講演 アートの役割って何だろう?

東京藝術大学長・アーティスト 日比野 克彦

アートとは何か、3つの視点で捉える。1つ目は「生きる力」。アートに欠かせないイメージする力、想像する力は、人が人らしく生きるために必要な力。2つ目は「多様性ある社会を築く基盤」。他者との違いがその人の個性になるというアートの価値観は、多様な価値の存在を認識できる社会をつくる。3つ目は「社会的な課題に対して持続的に取り組み続けていくには大切なもの。」人々のこころに作用し、行動を変容させていくのに必要なものである。
美術館の定義に「包摂的・多様性・持続可能性」「コミュニケーション」「コミュニティの参加」「経験を提供する」という文言が新たに追加された。アートは、作品・物だけではない。想像する力、他者との差異を否定しない、排除しないという感覚は、アートの持つ特性。それを、現代社会を構築する上での基盤に据え、大きな力が世界を動かすのではなく、一人一人の小さいけれど確実にある、少しずつ異なった多様な想いが時代を変化させていくと思う。

●主報告 八戸市の文化・スポーツによるまちづくり

青森県八戸市長 熊谷 雄一

旧市街地の商業機能が衰退する中、中心市街地活性化計画をもとに、新たな交流と創造拠点として、地域資源の魅力を創出・発信し、文化芸術、産業、観光、市民活動、子育て支援等の機能を持つ「八戸ポータルミュージアムはっち」を開館。その場に行かなければ得られないもの、出会えない人やコトが集まる場を、市民が当事者として参加・創造できるかたちで作ることを運営のキーコンセプトとしている。同様のコンセプトを共有しながら、八戸ブックセンター、八戸まちなか広場マチニワ、八戸美術館と公共交通網の整備を行い、その周辺は再開発事業の連鎖へとつながった。公共文化への投資が、民間による都市機能再編への投資を呼び込んだものといえる。
「八戸市長根屋内スケート場YSアリーナ」をオープン、翌年には民間施設「フラット八戸」が整備された。市民にスケートを楽しむ文化が根付いていたからこそのスポーツ・ツーリズムの推進など、新たな展開が生まれた。
市民の居場所と出番をつくること、多様化するライフスタイルの様々な段階においてサードプレイスで社会と関わること、まちづくりに参加することができる、多様な選択肢がある地域社会づくり目指していくことが必要だ。ハード機能のデザインに加え、運営というソフトデザインの両面で、多様なアクティビティを受け入れる都市空間を意識的に作り出してきた。文化的コモンズを創り出してきたといえるのではないか。

●一般報告 まちづくりの活力は地域に根ざした文化政策から育まれる

文化事業ディレクター、演出家 吉川 由美

八戸市は、アートの力で中心市街地を再生していこうという明確なビジョンがあった。「中心市街地をみんなの関心の空間に」「地域資源の再確認」「フラットな対話と交流スペース」を3つのポイントとし、八戸ポータルミュージアムはっちのアートプロジェクトがスタート、開館準備と開館後のアートプロジェクトにディレクターとしてかかわった。
市職員・アーティスト・コーディネーターとプロジェクトを進め、中心市街地のお店や事業者のみなさんの個人的なエピソードを吹き出しにして飾る「八戸のうわさ」や88人の市民に88組の市民を取材してもらい、そのエピソードを執筆し写真家によるポートレートを撮影する「八戸レビュウ」など、市民が主役のプレジェクトをいくつか行った。
宮城県南三陸町にも関わってきた。町の人々が復興する姿を、様々なアートプロジェクトを展開しながら見つめてきた。死を意識したアートスペースも展開された。文化は地域社会の分母として、根源的な地域基盤である。危機的な状況に置かれても、再生へのクリエイティブなアクションを起こさせる力をもたらすものである。
文化政策はこれまで、ハコモノが中心だったが、一人ひとりの生きる力を育むことがこれからの文化政策といえるのではないか。

●一般報告 標高差1,500mの地勢を活かしたスポーツ・ツーリズムの創出

長野県東御市長 花岡 利夫

地域の資源や特性を活かしたまちづくりを図るため、文化芸術行政とスポーツ行政を市長部局へ移管した。それに伴い、文化芸術・スポーツが生み出す魅力と発展に向け、振興施策の方向性を示すための計画を策定した。
市内は平地が少なく、1,500mの標高差があるのは欠点と受け取れるが、それを個性と受け止め、地域資源(価値)に変える事業を行った。一つはワイン特区の認定取得。もう一つは、高地トレーニングを実施できるようにするための施設整備。湯の丸高地トレーニング施設は、屋内プールや全天候型400mトラック等を設置し、水泳日本代表選手の合宿などに活用された。多くのアスリートに活用され、国際的な競技力を向上させ、東御から世界へ向かう場所であり続けるとともに、将来的には湯の丸に医科学的なデータを集積させることで、市民の健康寿命の取組に還元できる場所にしていきたい。

●一般報告 まちづくりにおけるプロスポーツクラブの有効活用

株式会社鹿島アントラーズfc取締役副社長 鈴木 秀樹

プロスポーツは、地域に豊かさをもたらすものと考える。クラブ創設からホームタウン5市(平成の町村合併を経て)の自治体が出資団体として参画していることが特徴である。その行政職員が1人ずつ1年交代でクラブに出向(派遣研修)し、地域の集客等にかかわりながら民間企業の経営感覚や斬新な発想の仕方などを身に着け、各自治体に持ち帰り活かすことができる。
単に社会貢献という自己満足ではなく、地域と対話していくことが重要である。5市の教育委員会と協力し、プログラミング教育、食育活動、キャリア教育、TPR教育(英語と動作を組み合わせた教育)を進めている。また、カーボンニュートラルの実現に向けた取組として、ペットボトルの「水平リサイクル」事業をスタートした。
2021年に新スタジアムプロジェクトを発表し、まちづくりの核となる青写真を自治体とともに描いている。目指しているのは地域の課題解決型のスタジアム。プロスポーツクラブが構想するスタジアムを、まちづくりに生かしてしまうことで、これも自治体によるクラブの活用といえるのではないか。もっとクラブの力を引き出し、活用してほしい。

 

第2日目 10月13日(金)

●パネルディスカッション

テーマ・一巡した文化芸術を活用したまちづくり
~自治体文化行政から魅力的なまちへ~

★コーディネーター 東京大学大学院人文社会系研究科教授 小林 真理

文化芸術・スポーツに関するもの等の、いわゆるハコモノをつくった後の運営に問題が生じることが多いのではないか。八戸市の場合は、とても丁寧に運営されていると見て取れる。文化政策とは、文化財とは別に今ある文化を活用しようというもの。
文化施設がお荷物になっていく、人口減少で文化はさらに大事さを増す、市史に文化についての記載はないなど、文化は権利であるにもかかわらず、それと意識されていない。文化政策とはどのような領域か議論していく。

★合同会社imajimu代表取締役 今川 和佳子

「八戸の独自性が生み出してきたもの」

これまでにない複合的な機能を持つ「八戸ポータルミュージアムはっち」をプロデュースした。「貸館事業」「自主事業」「会所場づくり事業」を軸に、自主事業に関しては観光からアートまで、歴史・伝統をテーマにしたものから現代まで多岐にわたる。その全てを貫いているのが「八戸という地域を再発見するという視点」だ。周辺住民に理解を得るため、計画を可視化し、施設の説明をして回った。
オープン後は、その自由な空間を使いこなす市民の多さに驚いた。また、中心市街地の通行量が前年度比30%増、空き店舗に32事業所が開設するなど、波及効果も大きい。郷土芸能とアートの親和性もあり、八戸らしいエネルギーや想像力を引き出していると思う。

★拓殖大学商学部教授 松橋 崇史

「地域活性化におけるスポーツの役割とその変化」

スポーツはだけでは解決しない、やっている人だけでは解決しないことを、子育てや福祉など他の分野から学び、解決に結びつけることができるのではないか。スポーツ(文化芸術)は、コスパや数字だけでは評価できない、本質的な価値に注目すべきだ。

★静岡県沼津市長 頼重 秀一

「スポーツとアニメを活用したにぎわいの創出
~誇り高い沼津を目指して~」

海山川の豊かな自然に恵まれ、バラエティに富んだスポーツエリアを多く有している。また、施設も充実し、1957年国体でフェンシングの会場となったことから官民一体となって「フェンシングのまち沼津」を推進。J3のJリーグクラブのホームタウンでもあり、サイクリストフレンドリーエリア沼津としてサイクリストも多く集まる。他にも、アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台として描かれたことから、聖地巡礼に訪れるファンも多い。
スポーツ振興課を教育委員会から市長部局へ移管し、ウイズスポーツ課と名称変更することで、地域振興にスポーツを活かしやすくした。スポーツとアニメを通じた取り組みを加速させ、まちが活気と魅力あふれるものにしていきたい。

★京都府綾部市長 山崎 善也

「文化芸術・スポーツで紡ぐまち・綾部
-市民一人1文化・1スポーツの推進-」

文化芸術が人々に感動や生きる喜びをもたらし人生を豊かにすることから、「市民一人1文化」を推進している。また、誰もがライフステージに応じていつまでもスポーツを楽しむことができるよう「市民一人1スポーツ」を掲げ、まちの活性化と都市との交流を進めている。
1980年度から開催されている「綾部市民合唱祭」は、綾部市合唱連盟主体に運営され、2011年度京都府で初めて開催となった「国民文化祭」では「里山合唱フェスティバル」を開催、全国から多くの参加者が集まった。「合唱のまち・綾部」を持続的に推進している。また、市民への指導者派遣や合唱祭参加支援も行っている。他にも、児童・生徒が市歌を歌うことで「ふるさと教育」にもなっている。
スポーツでは、自治会対抗ソフトボール大会や市民駅伝競走大会等の地域に根ざしたスポーツ大会と、サイクリングやカヌー、トレッキング等のスポーツ観光も推進している。
住民が地域に誇りを持ち、自分たちのまちを語ることができることから地域創生は始まると思う。文化芸術・スポーツの魅力や価値を最大限に活用することは、それを実現できる「鍵」となっていると確信している。

 

所感 

今回の会議で議論された「文化芸術・スポーツ」を自分に当てはめて考えてみる。特に芸術的な活動もしていないしスポーツにもしていない。しかし、「文化芸術・スポーツ」すべての人が自分らしく生活することとつながっていると議論を通して思うようになった。

先ず、アートが持つ力について、これまでは考えていなかったが、「アートは、作品・物だけではない。想像する力、他者との差異を否定しない、排除しないという感覚は、アートの持つ特性。それを、現代社会を構築する上での基盤に据え、大きな力が世界を動かすのではなく、一人一人の小さいけれど確実にある、少しずつ異なった多様な想いが時代を変化させていく。」との言葉に、地域で暮らす多様な市民の存在と、それを否定しない共存するまちづくりは、まさにアートだと思った。そして、伝統文化もまたそれを構築するための力となっていることもよく理解できた。また、スポーツについても体育という枠ではなく、まちづくりや地域振興と併せて考えることで、すべての人とかかわりを持つことになる。個人の趣味・趣向の枠を超え、まちづくりの一つのテーマとなる。

福生市では毎年、「市民文化祭」が開催される。今年も約3,000人の市民が参加し、作品の展示や演技等の発表が行われる。福生市と福生市教育委員会、福生市文化協会の主催によるものだ。会場には多くの市民が訪れるが、広げていける余地がまだまだあるのではないかと思う。

コロナ禍で途切れてしまった人とのつながりや地域コミュニティを、文化芸術やスポーツの力を借りて再構築していくことができるのではないか。そこには、世代を超えたつながりと多文化共生の視点が必要ではないか。福生市に合ったまちづくりを考えていきたいと思う。