全国都市問題会議『個性を活かして「選ばれる」まちづくり~何度も訪れたい場所になるために~』

3年ぶりの開催となった全国都市問題会議に参加してきましたので報告します。
人と人とのつながりが希薄になっていることが指摘されていますが、コロナ禍でさらにつながりにくくなっている現状があります。
「人とのつながり方も工夫次第で面白くなる!」…そんな思いになった学びの機会になりました。

第84回全国都市問題会議報告
1、会議日程
令和4年10月13日(木)から14日(金)
2、会場
長崎県長崎市 出島メッセ長崎
3、主催
全国市長会、(公財)後藤・安田記念東京都市研究所、
(公財)日本都市センター、長崎市
4、協賛
(公財)全国市長会館
5、テーマ
個性を活かして「選ばれる」まちづくり
~何度も訪れたい場所になるために~
各自治体が、人口減少社会に対する諸課題に取り組んでいるなか、新型コロナウイルス感染症の拡大により、社会の在り方が大きく変わってしまった。オンライン会議やテレワークの普及、働き方・住まい方の変化等、「包括的な意味での『分散型』社会」への移行が、社会の持続可能性・経済の活力にとって重要な要因となる。
地域外の人との関わり方や地域資源の活用、交流・参加の機会、新しい働きの場の提供等の取組を共有し、共通する要素やより発展させるために必要な視点に着目し議論する。
6、行政視察
長崎の教育 平和とこれからのデジタル社会
視察先・原爆資料館、平和公園、浦上天主堂
AR(拡張現実)を使用した平和学習アプリの体験、平和活動に取り組む 市民団体の取組や折り鶴のリサイクル等のSDGsの取組を視察

第1日目 10月13日(木)

  • 基調講演 『民間主導の地域創生の重要性』

株式会社ジャパネットホールディングス代表取締役
社長兼CEO 髙田 旭人

ジャパネットが事業方針として掲げてきた「見つける」「磨く」「伝える」を地域創生に活かすことが出来るのではないか。
行政は、福祉を充実させ、みんなが公平に恩恵を受けられる環境づくりを目指すが、民間企業は「幸福の最大化」を目指し、社会全体における幸せの総量を増やすことが役割だと考える。そのような意味合いにおいて、行政と民間企業の連携が重要だ。
転出超過が続くなか、市民に魅力ある長崎の可能性を信じてほしいという思いと仕事や遊びの場の創設、生活の充実をつくるため、「長崎スタジアムシティプロジェクト」を推進していく。
長崎での市域創生の成功モデルを横展開し、日本全国の発展へ貢献できることを目指すが、官民の連携が欠かせない。地域住民とも連携し、同じ目標に向かって地域全体の幸福の総量を増やしていきたい。

  • 主報告 『長崎市の魅力あるまちづくり』

長崎市長 田上 富久

アンケートによると、「観光は業者のもの」という意識が市民にあることがわかった。「観光は、まちを潤すものである」という意識の変化が必要ではないか。もう一度まちの価値を見直すことで、人を惹きつける魅力と、新しい時代の多様な都市の在り方が見えてくるかもしれないと考える。
軍艦島や長崎市恐竜博物館等、身近にあるものの新たな➀価値を見つける。※「長崎さるく」は、市民が参画した観光案内だが、市民が地域の②価値に気付く取組で、シビックプライドの醸成につながった。また、景観専門監制度を導入し、一般社団法人地域力創造デザインセンターの高尾忠志氏が着任。職員の意識の醸成と公共デザインの指導と管理を担当。地域の「部分」と「全体」の関係性や歴史、市民協働等、アドバイスを受けながら③価値を磨く。さらに、「長崎スタジアムシティプロジェクト」や坂のまち長崎ならではの若者による「さかのうえん」など、地域課題をポジティブに見直し④新たな価値を生み出している。
4つの視点で価値を見つめ直すには、「交流」が欠かせない。そのまちに暮らす「土の人」と訪れる「風の人」が交流し、価値が磨かれ、持続可能な地域社会の構築につながる。

※「さるく」は、ぶらぶら歩くという意味の方言で、全国の街歩き観光の先駆けとなった取組。

 

  • 一般報告 『何度も訪れたくなる場所 地域との新しいかかわり方・関係人口』

島根県立大学地域政策学部准教授 田中 輝美

関係人口とは、短期間の交流や観光という関わり方ではなく、長期間暮らし続けるという定住という関わり方でもない、その間にある新しい地域とのかかわり方で、2016年頃から使われている。
鳥取市用瀬町にある体験型民宿施設とコミュニティスペース「体験と民宿 もちがせ週末住人の家」は、週末だけその地域で暮らす「週末住人」のライフスタイルを支えている。2017年、空き家の活用と都市の人が一定期間滞在し働きながら地域の人たちとも交流する総務省の「ふるさとワーキングホリデー」の受け入れを始めた。「草刈り応援隊」や地域住人と一緒に年中行事に参加するなど、週末住人の体験と交流の場が広がった。
まちづくりの担い手が不足している地方と「ふるさと」を持たない「ふるさと難民」の若者がwin winの関係となり、関係人口となっている。このことから、①名前を覚えられる規模(量より質)、②準備から片付け、打ち上げまでみんな一緒に、③住民の想いや背景まで伝える(ストーリー性)の3つが、これからを考えるヒント、キーワードとなる。

 

  • 一般報告 『ビジョンを活かしたまちづくり
    ~「選ばれる山形市」を目指して~』

山形県山形市長 佐藤 孝弘

山形市は、「健康医療先進都市」「文化創造都市」を2大ビジョンとして積極的な施策展開を行い、具体的な施策のリンクに徹底的にこだわっている。
総合病院が数多く、一人当たりの診療所数も多い。健康医療先進都市が最も重視するのは健康寿命の延伸だ。特に力を入れているのが「健康ポイント事業SUKSK」で、スマートフォンアプリを活用し、歩数によって「健康ポイント」がたまり、抽選で山形市の特産品が当たる仕組み。現在9,000人が登録している。
平成29年にユネスコ創造都市ネットワークの加盟を受けた。30年以上前に市民の手作りによる映画祭として誕生した山形国際ドキュメンタリー映画祭は、世界で確固たる地位を築き上げた。山形交響楽団のコンサート、茶道愛好家が集まる茶室清風荘・宝紅庵は、文化創造都市の関係人口を生み出している。
まちづくりの共通言語としてのビジョンを示すことで、市民や企業等が連動して同時多発的に様々な取り組みが進むという現象が起きている。2大ビジョンに基づき、都市ブランド力の向上と持続可能なまちづくりを目指していく。

 

●一般報告 『「交流の産業化」を支える景観まちづくり~長崎市景観専門監の取り組み~』

一般社団法人地域力創造デザインセンター代表理事 高尾 忠志

長崎市は、「100年に1度のまちづくり」と呼ばれる大規模の事業によってまちを大きく更新する時期に来ている。100年後のまちをよいものとするために、その事業の1つ1つの質を高めるための1つ1つの協議、関わる人1人1人の働きが丁寧に積み重なっていくようコーディネートすることが重要だ。
市長発案による「景観専門監」は、①市が行う公共事業のデザインと管理、②市職員の育成の2点。いずれの部署にも属さず、あらゆる部局の事業を監修する庁内監修者(インハウス・スーパーバイザー)である。「個々の公共事業によって長崎のまちに『価値』を創造すること」をミッションとし、景観だけでなく市民のQOLを向上させ、シビックプライドを育て、訪れる人にとって良かったと思ってもらえるまちづくりを職員と一緒に検討する。
景観専門監に就任してから9年半で見えてきた課題は、①事業の縦割り、②ビジョン作成から各事業の現場施行におけるデザイン調整まで一貫して関わっているのは景観専門監のみ、③職員が事務的作業に追われ価値を想像し創造する意識が欠落していることの3点があげられる。地域のハブとなる自治体職員の育成という「人的資本」、人のつながりという「社会関係資本」に投資する景観専門監は非常に意味深い仕組みだ。そこに「環境資本」と合わさり、まちづくりが進む。各自治体においても、質の高い景観まちづくりが実現することを願っている。

 

 

第2日目 10月14日(金)

 

  • パネルディスカッション

「選ばれる」まちづくりに向けた都市自治体のアプローチ

☆コーディネーター 東京都立大学法学部教授 大杉 覚

まちづくりとは、それぞれの地域で醸成されてきた「根っこにある価値観」を再認識し、未来図を地域で描き、その実現を試みようとするプロセスである。
「選ばれる」まちづくりのアプローチはA不特定多数の観光客の集客を目指す観光立地型、B政策的な意図を明確に戦略として打ち出した観光政策型、Cワーケーション等のプラスワン拠点型、D住民が未来価値実現に向けた地域づくりの主体となる価値実現型に分類できるのではないか。選ばれるまちとなるために、訪れる人と住民が価値実現のプロセスを享受できるよう工夫することが重要だ。

 

☆ゆとり研究所所長 野口 智子

「人が人を磨き、輝く人が人を呼ぶ~「雲仙人プロジェクト」の試み~」

先ず、人づくり。その人がつながり合ってパワーアップする。そして、知っているようで知り合えていない人をつなげることが大事。
今、人は妙に分断されている。分けることで束ねやすく効率的に人を扱いやすくなるかもしれないが、いつまでもいつもと変わらない。そこで、既存の団体に関係なく、人が集まってお互いを知り合う場をつくろうと考えた。「雲仙人サロン」と名付け、毎月緩やかなサロンを開催。そこでつながった人たちが、新たな事業を展開している。

 

☆山梨大学生命環境学部地域社会システム学科教授 田中 敦

「ワーケーションの意味の拡張と変異」

ワーケーションは、休暇型と業務型に分類される。休暇型は、福利構成型としてリゾートや観光地でテレワークを行う。業務型はさらに、①地域との交流を通じて地域課題の解決策を考える地域課題解決型、②普段と場所を変え職場のメンバーと議論する合宿型、③サテライトオフィスやシェアオフィスで勤務するサテライトオフィス型に分けることが出来る。
ワーケーションは、新たな旅のスタイルともなる。また、回遊している人が何度も訪れるためには、設備だけでなく人のつながりが重要となっている。

 

☆NPO法人長崎コンプラドール理事長 桐野 耕一

「人は人に会いに行く!~「まち歩き」で見つけた“まちのつくり方”~」

2006年に日本初となるまち歩き博覧会「長崎さるく博‘06が開催された。観光に求められるものが変わる中、「長崎さるく博」が目指したのは、体験型の「まち歩き」。まち歩きガイドは、見えないものを語って見せる。語ることは、自己表現の場でもあった。
博覧会は往々にしてパビリオンが残されるが、長崎の場合はまち歩きガイドとしてかかわった市民が財産として残り、現在の「まちぶらプロジェクト」につながっている。

 

☆岐阜県飛騨市長 都竹 淳也

「人口減少先進市の挑戦 ~ファンとともに取り組むまちづくり~」

2017年に「飛騨市ファンクラブ」を設立し現在10,183人、つながり、集い、語り、飛騨市をさらに楽しんでもらうコミュニティ組織である。
ファンクラブから生まれた「関係人口」やファンに助けてほしい地域(人や団体)をマッチングする関係案内所「ヒダスケ!」活動など、飛騨を愛する人と地域住民が良い関係でつながっている。
重要なことは、困難と思える地域の課題解決の中に楽しみを見つけること。人口減少時代のまちづくりのキーワードは、「楽しい、うれしい、面白い」だ。

 

☆兵庫県伊丹市長 藤原 保幸

「清酒発祥の地・伊丹~酒と文化が薫るまち~」

兵庫県は、全国最多で9件の日本遺産が認定されているが、「清酒発祥の地」として伊丹市も選ばれている。公共施設マネジメントにより、市内5つの施設を統合し「市立伊丹ミュージアム」をオープン。「酒と文化が薫るまち」を基本テーマとし、歴史・文化・芸術の新たな発信拠点となった。伊丹大使は、田辺聖子氏や有村架純氏など著名人にお願いしている。
市民活動の担い手や若い人の参加が課題となっている。 

所感 

今回の会議で議論された「個性」について考えてみると、肯定的な個性だけではなく、これまでは負の個性であった課題がまちの魅力として、訪れる人を惹きつけていることがわかる。中でも特に注目したのは「関係人口」だ。

日本全体の人口が減少している中で、「関係人口」という「人口をシェアする」考え方は、とても興味深い。つながりの欲しい都市の人とまちづくりの担い手が欲しい地方を結び付ける仕組みを、市民や団体と自治体が協働してつくり、地域が活性化している。観光など客としてその地域を訪れるのではなく、主体的にまちづくりに参加することで、訪れる人にとって「ふるさと」となっている。地域住民も、外から人が入ることでまちを知り、まちを好きになることで、誰かのまちではなく自分のまちという意識が強くなり、気持ちの変化が生まれる。両者が自分の存在意義を自覚し、自己有用感が生まれることで、何度も訪れたくなるまちとなっている。この自己有用感を感じるのは時間がかかるから、つながりをつくるプロセスを楽しむこと、中間支援組織が良き伴走者となることが大切との、パネルディスカッションでのコーディネーターの言葉が印象に残っている。

もう1点注目したのは、「景観専門監」の導入だ。まちづくりは、長い時間がかかる。特に、ハード面は計画から完成までの期間が長く、その間関わる人が変わっていく。また、個々の公共施設や民間施設との兼ね合い、歴史や住民の想い等も考えると、全体をコーディネートできるスキルと知識を持った人材が必要だ。これを可能にしたのが「景観専門監」ということになる。まちの部分を変えることで、全体に与える影響を考えるとの話があったが、まちづくりには大切な視点だと感じた。

福生市でも今後、長い期間をかけて公共施設の建て替え等を行っていく計画だが、まち全体をどのようにつくっていくのかを考え、コーディネートしていくことが重要ではないか。また、地域の課題を強みに変えることが出来るような施策を展開していくことが重要ではないか。今回の学びを活かし提案できるよう、さらに学んでいきたい。