妊娠葛藤白書 ~にんしんSOS東京の現場から~

「妊娠葛藤」という言葉をご存知でしょうか。

「妊娠したかもしれない」「生理が遅れている」「親に相談できない」などの妊娠確定前の不安や恐れと、妊娠発覚後の「仕事ができなくなるかもしれない」「居場所がなくなる」「お金がない」「相手に逃げられてどうしていいかわからない」などの妊婦自身の生活を左右する不安や恐れなど、妊娠にまつわるすべての「困った」「どうしよう」を妊娠葛藤といいます。

思いがけない妊娠など、妊娠にまつわる様々な相談に応じ、多様な人材で支援にあたっている特定非営利活動法人ピッコラーレが、その前身である「にんしんSOS東京」を開設した2015年12月から2019年12月までの4年間で受けてきた相談を分析し、「妊娠葛藤白書」としてまとめました。4月10日に行われた、発行記念イベント(オンライン)~葛藤妊娠を知っていますか?「にんしんSOS東京」の寄せられた声に学ぶ~に参加しました。

白書は、期間中の相談2919件を分析し、相談内容を
1,妊娠したかもしれない・避妊について
2,思いがけない妊娠
3,中絶について
4,妊娠葛藤決断後
の4つの区分に振り分け、それを、大・中・小に分類し詳細に分析。
また、相談者の背景を抽出するために
A、妊娠当事者に起因する背景
B、家族関係に起因する背景
C、パートナーに起因する背景
D、社会的環境に起因する背景
E、経済的背景に起因する背景
の5つに分類しています。細かく分類された内容をみますと、一人ひとりの「困った」が、それぞれみんな違っていることがよくわかります。

すべての相談者を年齢でみると、13~19歳が40.5%、20~29歳が36%と、
全体の76.5%となっていて、若い世代が圧倒的に多くなっています。

印象的なのは、1,妊娠したかもしれない・避妊についてに関する相談では、13~19歳の相談が53.1%と最も多く、次に20~29歳が32.8%と多くなっていること。
中でも「性行為に関して」の分類では、「挿入行為をしていないが妊娠が心配」という相談が10代では115件、20代で36件、全体では172件もあり、妊娠が成立する仕組みなどの知識が不十分で、性行為と妊娠が結びついていないのではないかと分析されています。性教育が不十分であることは感覚としてありましたが、実際に数字として表れていることがわかります。
他にも、相手が避妊に非協力的だという相談などパートナーと対等な関係性を築くことの難しさがみられたこと、中絶が認めらない妊娠22週以降に相談してきた事例があること、経済的に困窮していたり虐待など複雑な人間関係を抱えたりしている傾向が強くみられたということです。

イベントの後半は、「妊娠葛藤を自分ごととして感じてほしい」との想いから、参加型のワークショップが企画されていました。
相談者の例として・・・34歳無職、SNSで知り合った男性を頼っていたが、妊娠をきっかけに一緒には住めないと言われた。仕事もなく、お金もなく、住むところもなく、携帯電話も使えなくなった。この女性の気持ちやどんな生活をしているか、何を必要としているかを参加者一人ひとりが考え、グループでシェアしました。シェアすることで、様々な受け止め方があることに気づきました。そのあと、この女性の背景などをシェアし、相談が進むにつれて、具体的な支援が見えてくるのだと感じると同時に、相談者に寄り添う支援とはどのようなものか、どんな言葉を掛けたらいいのかなど、難しさも感じることができました。

まとめに・・・この白書での分析をまとめた、プロブレムツリーを解説されました。
その中で、「妊娠葛藤を強化する最終的な条件」として浮かび上がったもののほとんどが、経済的貧困や関係性の貧困に起因する「自己決定できない」ものでした。自分の体に起きていることなのに、妊娠出産に関して自己決定できない現実が日本社会にはあるということ。
今、セクシュアルリプロダクティブヘルス/ライツの概念は広がりつつありますが、それだけでは何の解決にもならず、経済格差や情報の格差をなくすこと、虐待や暴力など多くの社会課題を解決しなければ、妊娠葛藤の問題はなくなりません。
また、「SDGs3すべての人に健康と福祉を」「SDGs5ジェンダー平等を実現しよう」にも通じる課題であることや包括的性教育を広げ、一定の基準で誰でも同じ教育が受けられることの重要性などをお話しされました。

多くの自治体で、妊娠から出産、産後、子育て支援を充実させるための施策が進められています。また、不妊治療費の助成など経済的な支援も進められるようになりました。しかし、母子手帳を手にするまでの間、公的な相談窓口や支援はありません。
妊娠出産をきっかけに孤立することがないよう、そこに通じる様々な問題を解決していくことや制度の見直しなどを進めることの重要性をあらためて感じました。
白書をじっくりと読み、これからの活動につなげていきます。