多様性を認め合い 誰もが自分らしく暮らす まちづくり
報告が遅くなってしまいましたが・・・
7月13日~14日 狛江ネット・吉野よしこ、山本あきこ 府中ネット・西のなお美とともに、兵庫県明石市と大阪市淀川区に視察に行ってきました。
個性的でバイタリティーあふれる明石市の泉市長、行政マンになってこんなにありがとうと言われたことはないとおっしゃる淀川区市民協働課のみなさん、学生がその講義にとても集中していたのが印象的だった大阪国際大学人権講座の金 洪仙(キム ホンソン)先生。
たくさんの出会いがあった視察となりました。
少数者に配慮したまちは 誰にでも暮らしやすいまちになりますね!
明石市
障がいのある人と無い人のコミュニケーションについて
(障害者差別の解消に向けた条例の制定について)
1、条例制定の経緯
1)手話言語を確立するとともに要約筆記・点字・音訳等障害者のコミュニケーション手段の利用を促進する条例(手話言語・障害者コミュニケーション条例)について
平成21年度日本が批准した障害者の権利に関する条約の中では、「手話その他の形態非音声言語」が言語として定義されています。また、コミュニケーション手段として手話を含む言語のほか、文字の表示、点字、触覚、平易な表現等による多様なコミュニケーション手段であることが、認められることになりました。
日本でもこの条約の趣旨を反映した障害者基本法の改正で、コミュニケーション手段の選択と利用の機会が確保され、自立と社会参加への促進につながるものとなりました。
明石市では、実際には障がい者のニーズや特性に応じたコミュニケーション手段の選択と利用の機会が十分に確保されているとは言えず、地域の中での人間関係を築くのに困難をきたしている人が少なくありません。障がい者のコミュニケーションの権利を実現するためには、障害者の権利に関する条約の理念を広く市民と共有することが必要です。
多様な人と人の出会いと相互理解の第一歩がコミュニケーションであることをすべての市民が確認し合い、お互いに一人ひとりの尊厳を大切にする共生のまちづくりをすすめるために、条例制定に至りました。
2)明石市障害者に対する配慮を促進し誰もが安心して暮らせる共生のまちづくり条例(障害者配慮条例)について
障害者の権利に関する条約の中では、障害者の社会参加の妨げになっている社会的障壁を社会の責任で取り除き、障がいを理由とした差別をなくし、障がいのある人もない人も等しく基本的人権を享有する社会が求められています。国内の障害者基本法が改正され、また障害を理由とする差別の解消の促進に関する法律が制定されたことで、条約の理念を具体化する制度が整えられました。
明石市では、手話言語条例を制定したが、保育、教育、就労、医療、移動、生活環境、情報、防災など様々な場面に社会的障壁や差別が存在し、障がい者の社会参加が困難な状態が続いています。
障がいのある人に対する合理的配慮の提供に関する理念が市民一人ひとりに根付き、障がいを理由とした差別が解消されることにより、障がいの有無にかかわらず平等な社会参加の機会が保障され、一人ひとりの尊厳と人格、選択と自己決定が大切にされる共生社会の実現されるために、条例制定に至りました。
2、条例検討委員会について
1)手話言語・障害者コミュニケーション条例
平成26年度9月から、障がい者(ろう者、難聴者、視覚障がい者)、コミュニケーション支援従事者や学識経験者からなる検討委員会を設置、11月にかけて4回開催した。委員以外のコミュニケーションが困難な障がい者からもヒアリングを実施し、当事者の声を聞き取った上で条例案をまとめた。
2)障害者配慮条例
(仮称)明石市差別解消条例検討会で4回の検討会を実施。
構成メンバー
学識経験者・弁護士 3名
社会福祉・保健医療関係者 4名
障がい者の支援者 2名
障がい者または障がい者の家族 5名
民間事業者 3名
教育関係者(特別支援学級の教員) 1名
関係行政機関の職員 3名
公募市民 5名 合計26名
その他にも事業者アンケートの実施や2回のフォーラムの開催、市内2カ所でのタウンミーティングの開催、パブリックコメントの実施などをおこない、条例案をまとめた。
3、特徴について
1)手話言語・障害者コミュニケーション条例
手話言語の確立とともに、要約筆記や点字、音訳等の手話以外の障がい者の多様なコミュニケーション手段を規定し、障がいの特性に応じたコミュニケーション手段も利用しやすい環境づくりをめざしている。
2)障害者配慮条例
障害者の差別解消を支援する地域づくり協議会の設置。障がいを理由とする差別を解消するために必要な施策について市長に意見することができ、条例に施行状況の検討と見直しをする。
4、主な取り組みについて
1)手話言語・障害者コミュニケーション条例
・全ての小学校で手話教室を実施・職員手話研修の実施・手話通訳士の資格を持った新規職員採用・市公園行事での手話通訳者、要約筆記者配置費用助成・タブレット端末を使った遠隔手話通訳サービス・点字による市役所の情報発信・いろいろな表現による情報の提供(わかりやすい表現)・施策推進協議会の開催
2)障害者配慮条例
・合理的配慮の提供を支援する助成制度・障がい理解のためのタウンミーティング・差別を解消するためのしくみ 相談、助言について・地域で支えるまちづくり 地域づくり協議会
総括
手話言語・障害者コミュニケーション条例は、手話を言語として認める条例に加えて、さらに多様なコミュニケーションを条例で規定することで、様々な障がいに広く対応できる環境づくりをしている。この条例を、障がい者差別の解消に向けた施策の一環として位置づけ、平成28年度4月施行の障害者差別解消法に合わせ、障害者配慮条例へとステップアップさせている。
また、障がいのある人もない人も暮らしやすいまちづくりをめざして、障がい者当事者の職員採用で施策を進めている。担当課長は公募で入庁した当事者で、内閣府の障害者制度改革に当事者として参画し、障害者基本法の改正や差別解消法の制定にも携わった。当事者が参画することで、よりきめ細やかな施策になっている。
合理的配慮の提供を支援する助成を受け、商店の出入り口のスロープや点字メニューの作成など、障がい者が出かけやすいまちづくりにつながっている。それは同時に、乳幼児など子ども連れの家族や高齢者にも優しいまちづくりにつながっている。
大阪市淀川区
市民協働課のLGBT支援事業について
1、支援事業を行うにあたっての経緯
平成24年、前大阪市長の公約により、公募で民間から選ばれた榊区長。市長は各区、特色ある取り組みを進めていた。
翌年、榊区長は元大阪神戸アメリカ領事リネハン氏と会談。リネハン氏は、自身がゲイであることを公表し、あらゆる場面でLGBTについての理解を求めていた。会談の中で、LGBTは偏見や差別の対象となり、ひきこもりや若年層の自殺率が高くなっていることを知り、性的嗜好や病気ではなく人権問題であることを認識する。人権を守るのは行政の役割であるとの判断で支援事業を行うに至った。
また、1997年府中少年の家事件の東京高裁の判決では、「都教育委員会や行政当局としては、その職務を行うについて少数者である同性愛者をも視野に入れた肌理の細かな配慮が必要であって、無関心であったり知識がないということは公権力の行使にあたるものとして許されないことである」との要旨が示され、すでに司法の場において行政に対するLGBTへの配慮義務が示されていたことを認識した。
2、支援宣言について
先ずは知ることが大事なので、当事者によるトークセッションを開催した(平成25年6月16日)。参加者はもちろん、多方面からの反響が大きかった。さらに意見交換を行った。
・海外では当たり前のように多様性が受け入れられている。
・子どもたちが将来、海外で活躍するときに知らないとハンデになるのでは ないか。
・医療、教育、行政への勉強会(研修)が必要。
・LGBTイベントへの行政の協賛
・LGBT専門相談窓口の設置を希望
・コミュニティースペースの設置を希望
現状を知るとともに、行政が取り組むべき課題について考えることができた。
平成25年9月1日、行政として初めてLGBT支援宣言を行う。
『LGBT支援宣言』!
淀川区では、多様な方々がいきいきと暮らせるまちの実現のため、LGBT(性的マイノリティ)の方々の人権を尊重します。
・LGBTに関する職員人権研修を行います!
・LGBTに関する正しい情報を発信します!
・LGBTの方々の活動に対し支援等を行います!
・LGBTの声(相談)を聴きます!
3、主な取り組み
平成26年度から本格実施
・電話相談窓口を専門的に設置(初日1,200コールに対し115件しか受け取る ことができなかった。)
・コミュニティ-スペースの設置
・職員研修の実施
・市民向け啓発事業の実施
・LGBT当事者との意見交換を継続的に実施(災害時の避難所についてや、障がいのある当事者についても意見交換していく)
・小・中学校にLGBTに関する絵本や書籍等を配架
・教職員ハンドブックを作成(平成27年度、都島区・阿倍野区合同制作)
※区役所での取り組み
・区役所内での働きやすい職場を目指して、職員LGBT相談窓口(相談員2名)を設ける
・LGBT理解ある職員の証として、全職員の名札にレインボー夢ちゃんを表記。
(淀川区キャラクター・夢ちゃん、LGBTシンボルのレインボー)
・多目的トイレ「だれでもご利用」表示(レインボーマークも表示)
・『多様な方々がいきいきと暮らせるまち淀川区』の懸垂幕を掲出
・LGBT事業に特定した「ふるさと納税」新設。
総括
区役所前にはレインボーフラッグが飾られ、掲げられた懸垂幕が目を引き、この支援事業が区民に広く支持されていることと、自信と誇りをもって進められていることを思わせる。
当事者たちが直面する「自分を受け入れられず、自分を肯定する情報も機会もない」「自分を出せない」「いじめや嫌がらせなど予期せぬ危険」「服装やトイレなど生活自体が難しい」「ロールモデルがなく将来を展望できない」などの課題を人権問題としてとらえ、行政が支援することで学校での取り組みはもちろん、働く環境にも波及させている。さらに、LGBT施策は横軸の施策とし、幼少期層・青年層・成年層・高齢者層と生涯を通しての支援が必要で、例えば高齢者施設での対応や、災害時の避難所運営など様々な場面での支援が必要だ。行政が支援することで、課題解決につなげられる。
「この担当になってから、ありがとうと言われることが多くなった。やって当たり前の職員としては考えられない。それだけ、今まで何もしていなかったことがわかる」との担当課職員の話が印象に残った。
(3)大阪国際大学
人権教育授業見学
講師・金 洪仙(キム ホンソン)
子どもの頃家業を手伝っていて、誤って両指をすべて切断してしまった。障がい者としても、在日韓国人としても差別を受けた。学校に通えないなどの困難を乗り越え、独学で勉強を続け、現在は大阪国際大学の人権の講義を担当している。
この日の講義はLGBTについて。
LGBTは身近な存在でだけど見えない存在であること。多くの困難を抱えていること。理解と支援が必要であることなどが抗議された。
例として、シンガーソングライターとして活動している当事者が紹介されているテレビ番組の特集を見たり、ゲストスピーカーとして当事者の学生が話し、質問に応じたりした。
人権については様々な課題があるが、先ずは当事者を知ること、認めることが大事なのだと思った。
所感
明石市の障がい者支援では、子どもづれにも優しいまちづくりとなり、「子どもを真ん中にしたまちづくり」との相乗効果で人口はⅤ字回復している。
淀川区のLGBT支援では、マイノリティーに優しいまちづくりは、障がい者やシングルマザーなど、さまざまなマイノリティーに優しいまちとの認識が市民にも広がっていることが、区役所に寄せられている声等でわかる。
今回は、障がい者支援とLGBT支援について視察させていただいたが、どちらも人権課題であるとの認識を強くした。まちの中で区別することなく暮らすには、支援と同時に、いて当たり前の存在として市民が認識すること。そのための啓発がとても大事だと思った。それを行政が積極的に取り組むことで、市民の理解へつなげている。多様性を認め合い誰もが暮らしやすいまちにするためには、少数者に配慮した施策の充実の重要性をあらためて感じ、今後の政策に活かしたいと思う。