第77回 全国都市問題会議in長野
街路樹も色づき始めた秋晴れの長野市で、10月8日(木)・9日(金)の2日間にわたり開催された、全国都市問題会議に参加しました。
会場・長野市 ホクト文化ホール(長野県県民文化会館)
主催・全国市長会、(公財)後藤・安田記念東京都市研究所、
(公財)日本都市センター、長野市
協賛・(公財)全国市長会館
テーマ・都市の魅力づくりと交流・定住
~人口減少社会に立ち向かう 連携の地域活性化戦略~
現在、全国で少子化対策をはじめ人口減少に対応した様々な取り組みが進められていますが、その効果が表れるまでには時間がかかります。先ずは、人口減少を見据え、都市のコンパクト化や近隣自治体の一体となった取り組みの推進等により、持続可能な社会をつくることが必要です。
観光客や多地域居住者など交流人口を拡大させることで、人口減少の影響を緩和し、地域を活性化させようという動きが広がってます。
近年、自治体と住民、事業者、NPO、大学・研究機関等が連携・協働して様々な課題に取り組むことが多くなってきました。こうしたガバナンスの変化とともに、人口減少に伴う需要の減少や財政状況の悪化等によって、自治体間の連携も含めたさらなる連携が必要です。
こうした背景を踏まえて、連携による地域活性化の観点から今回のテーマについて、課題を検討し議論します。
第1日目 10月8日(金)
● 基調講演 『世界の山々を目指して』 登山家・田部井淳子
東日本大震災後、避難所を訪問して歩きましたが、避難生活も落ち着いてくると、避難者はすることがなく元気のない様子が見られました。なにか自分にできることをと、楢葉町の住民が避難している芦ノ牧温泉で、避難者を誘いハイキングを決行しました。自然から力をもらい、参加者は元気を取り戻しました。
他の避難所でもハイキングを行い、全部で54回にもなりました。
被災した高校生にも、自然や山から元気をもらい、成し遂げることで勇気をつけ、復興への力にしてほしいとの思いから、夏休みに富士登山を行うプロジェクトを開始し、現在までに322名の高校生が参加しました。
次なる東北を支える高校生を元気にするために仲間と連携、また、ご自身も国連加盟国193か国を登山での制覇を目指すと目標を語りました。
●主報告 『活き生き「ながの」元気な長野
―人口減少の克服に向けて オール長野の力を集結―』
長野市長・加藤久雄
予算規模が縮小していく中、職員のアイディアやエネルギーを引き出し、長野を元気にすることを目指します。
健康寿命と少子化対策、企業誘致を推進し、「定住人口の増加」を図ることとして、「子ども未来部」を創設し、子どもに関する事業を一元化しました。新幹線延伸に伴う賑わいを生む観光などを推進し、「交流人口の増加」を図ることとして、善光寺を中心にして、市民ひとり一人に「おもてなし」の気持ちが醸成されています。中山間地域活性や農林業振興などを推進し、「特色ある地域づくり」を図ることとして、「住民自治協議会」が組織されています。また、新たな企業を生み出す「やまざとビジネス支援補助金」制度に取り組んでいます。
都市部への人口流出を食い止め、大都市と地方の「Win Win」の関係を目指します。
●一般報告 『都市の魅力づくりと交流・定住
―人口減少社会に立ち向かう 連携の地域戦略―』
立教大学観光学部兼任講師
観光地域づくりプラットホーム推進機構会長・清水愼一
観光振興による豊かな地域づくり『観光地域づくり』が重要な政策課題です。地域外の人々との観光交流等から生じる経済効果や誇りの醸成、生きがいの創造など、地域の「あるべき姿」に向けた取り組みをすることが必要です。こうした取り組みは、地域への愛着や高齢者のひきこもり防止へもつながります。
「観光地域づくりプラットホーム」を提唱。観光地域づくりには、観光協会だけでなくNPOや住民、文化施設、宿泊施設、商工会、鉄道会社など、様々な分野の人が一堂に会して議論し、エリアブランドの発信や商品、サービス、プログラムの一元化を図ったり、予約・手配のワンストップサービス機能をつくることで実現していきます。
自治体、業種、官民の壁を超える施策が必要です。
●一般報告 『地域資源を活かした連携によるまちづくり』 豊田市長・太田稔彦
豊田市の課題は、急速な高齢化と農山村地域の人口減少です。就職に伴う転入者が多いため、退職後地域デビューができないままの高齢者が多いのが現状です。
「地域自治システム」構築のため、地域自治区制度を導入し、「地域会議」を設置しました。地域住民が自ら課題を解決する取り組みである「わくわく事業」補助金の交付審査、予算を提案する「地域予算提案事業」の2つがその柱です。
高齢者が地域課題解決の担い手となり活躍する、地域の中で「求められる」「役割がある」ことが生きがい対策、健康増進につながることを目指しています。
連携による地域活性化の視点から「ミライ・チャレンジ都市」の取り組みを行います。市民、NPO、大学、企業など、多様な主体と行政が連携する「共働によるまちづくり」を進めます。
●一般報告 『一五輪一会』 (株)文化事業部 代表取締役・セーラ マリ カミングス
民間と行政の協力が重要です。民間の変化する環境に対応したり改善し続ける能力と、行政の広がりをつくる厚い信頼。お互いの強みを生かして協力し合うことが必要です。 日本の伝統と企業をつなぐ、地域と世界をつなぐ、世代間をつなぎ、まちの活性化を図りたい。
第2日目 10月9日(金)
●パネルディスカッション
コーディネータ/一橋大学副学長、同大学院法学研究科教授・辻 琢也
全国的な高齢者シンドロームといえる現象。高齢者が問題なのではなく、納税者が減る ことが問題です。高齢者が働きに出かけるための交通手段の整備や仕事(役割)を地域に生み出していくことが求められています。
地方創生というより国内のバランスを取る、希望と自信と誇りを持てる地域づくりを目指すことが必要です。
パネリスト/両備グループ代表兼CEO・小嶋光信
地域貢献の一環として公共交通の再生を支援してきました。問題の本質を改善すること、地方を経営の観点から見直すことが大事な視点です。
地方再生プランナー・久繁哲之介
「連携」の考え方が、官と民では違っています。民間同士の連携はうまくいくのに、官との連携はうまくいかないことが多いように思います。補助金を出すだけでなく、民間同士の連携にも協働することが必要です。
子どもの声がうるさいという高齢者とのトレードオフ。人口減少(少子化)の本質は「人の意識」が重要です。
信州大学全学教育機構基幹教育センター教授・橋本純一
Jクラブとの連携で、まちの魅力を引き出します。ホームタウンである意識、ファンやサポーターである連帯感、スポンサーや地域企業・商店による地域振興につなげます。
真庭市長・太田 昇
「里山資本主義」東京になくて真庭にあるもの、真庭ライフスタイルを構築します。バイオマス発電事業を進めることで、視察等人の流れが生まれ観光客が増えます。土産物を地域で生産し、障がい者・高齢者の仕事につなげます。
合併後の多彩性を生かした広域行政を推進し、「ひとつの真庭」として自立し合併効果を生み出しています。
今治市長・菅 良二
尾道市とのサイクリングによる連携。今治タオル・ブランド化のための外部人材との連携。農協と零細農家の連携。
地方創生は「知恵の出しくらべ」ではありません。地方同士で競うものではなく、大都市から地域への新しい人の流れをつくるために、連携を深めていく必要があります。
●行政視察 「ながの緑育協会」とホームタウンスタジアムを訪ねる
・南長野運動公園
長野冬季オリンピックで、開閉会式会場となった施設。野球場(オリンピックスタジ アム)・体育館・プール・テニスコートなどの施設のほか、芝生広場や噴水等があり、多 くの市民に利用されています。視察翌日には、市内中学生による「駅伝大会」が開催される予定で、メイン会場になる本公園で準備が進められていました。
今視察では、オリンピックスタジアムと、今年完成した総合球技場を見学しました。
・篠ノ井中央公園
緑を育てることを通じて「人とのふれあい」「緑と触れ合う習慣や文化」「人間性」を育むこと『緑育』を推進するための活動拠点として整備された公園です。
『緑育』を進めるため、一般財団法人ながの緑育協会(愛称:ながのの花と緑そして人を育てる学校)では、園芸研究家の矢澤秀成さんを校長として迎え、緑育事業を展開しています。
ながの緑育マイスター事業は、花と緑によるまちづくりの担い手となる人材を養成し、講座修了後は「ながの緑育マイスター」として、花壇づくりや花苗の定植、除草等の緑育の推進に向けた様々な取り組みを応援します。育種寺子屋事業は、簡単な交配により世界に1つだけの花をつくります。小学生を対象に行われ、植物を育てる喜びや不思議さを学び、子どもたちの豊かな心を育みます。
緑育マイスターは、本人の意志により会費を払って登録します。ボランティアに頼りすぎると人を集めるのが難しくなってしまので、継続性を高めるための登録制度を取っています。
管理棟には、実習室や講習室等があり、ながの緑育マスター養成講座、花と緑の展示会などが行われています。緑育協会事務所がおかれています。
・茶臼山自然植物園
地すべりの跡地を利用して整備された公園。現在は改修工事中ですが、緑育マイスターやボランティアの市民と定植を行う予定です。
会議では、「人口減少社会に立ち向かう連携の地域活性化戦略」をテーマに、様々な取り組み等の報告や意見、提案がなされました。日本全体の課題である人口減少社会を、地域の特色を生かし、解決の方向へ向かわせる取り組みをしている事例等を聞き、福生に照らして考えることができました。
まちの規模や特色は、似通っているところは少なかったですが、まちづくりの中で、高齢者をどのような人材として活かしていくのかを考えることは、共通している点でした。 高齢者は、これまでの価値観では社会的コストにつながると捉えられていますが、地域課題解決のための担い手となっていくことが期待されています。そのためには、まちづくりにおいてどんな役割を担っていくのか、何を求めるのかを、当事者が一緒に考える場が必要です。それは、健康増進や生きがい対策となり、よい効果が得られると期待できます。 また、退職後のひきこもり対策についても考えなくてはならない課題であることを認識しました。これは、出産後に孤立してしまう母親の課題と似ているところでもあります。少子高齢化問題を解決の方向に向かわせるには、同時に取り組まなくてはならない課題です。
行政視察では、緑育事業での市民の関わり方について、たいへん参考になりました。自分の意志でやりたいことをやる、それが地域への貢献やまちづくりにつながっている。やらされるのではなく自ら進んで参加することは、やりがいや生きがい、心の健康にもつながります。
人と人とがつながり顔の見えるまちづくりを進めるため、また、地域の力を引き出すために、この度の会議で得たものを活かしていきたいと思います。