多様性と調和の実現のために
東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長が、女性蔑視発言が問題となり辞任しました。
オリンピック憲章に反する発言と指摘もされました。
そこで、近代オリンピックがどんな意味を持つのか、あらためて確認してみたいと思います。
近年のオリンピック・パラリンピックは「多様性」が強調されています。これは、オリンピック・パラリンピックに多種多様な人々が参加し、オリンピック・ムーブメントを広めていくという考えに基づいています。「オリンピック・ムーブメント」とは、オリンピックのあるべき姿(オリンピズム)を世界中の人々によく知ってもらい、その考え方を大きく広げていく活動のことです。夏、冬ともに4 年に1 度開かれる「オリンピック競技大会」も、「オリンピック・ムーブメント」の活動のひとつで、世界でもっとも規模の大きな「オリンピック・ムーブメント」です。スポーツだけでなく、オリンピズムを広げようとする芸術作品の展覧会やコンサート等の文化的な活動もオリンピック・ムーブメントとなります。
オリンピック憲章の定めるオリンピズムの根本原則には、「オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てること」、「スポーツは人権の一つであり、いかなる種類の差別も受けることなくスポーツする機会を与えられ、友情、連帯、フェアプレーの精神とともに相互理解が求められること」、「権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、国あるいは社会的な出身、財産、出自(しゅつじ)やその他の身分などの理由による、いかなる種類の差別も受けることなく、確実に享受されなければならない」とうたわれています。オリンピズムとは「スポーツを通してこころとからだを健全にし、さらには文化・国籍といったさまざまな違いを超え、友情や連帯感、フェアプレーの精神をもって互いを理解し合うことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する」という考え方のことです。
東京都は、オリンピック開催地に決まってから「東京都人権施策方針」を見直しました。また、この大会を通して「多様性を尊重する共生社会の実現」というレガシーを作り出すため、身近な人権課題をもう一度見直そうと呼びかけています。
2014年にソチで開催された冬季オリンピックでは、その前年に成立したロシアの「反LGBT法(反同性愛法)」(通称)は人権侵害だとして反発したアメリカ、イギリス、ドイツなどの欧米諸国の要人が開会式を欠席したことで世界中が注目しました。これを機に、国際オリンピック・パラリンピック委員会が提言した「オリンピック・アジェンダ2020」を踏まえて、オリンピック憲章の「いかなる種類の差別」の中に「性的指向」が加えられました。その憲章改正を受けて、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の基本計画にも多様性を認め合う対象として、「性自認及び性的指向を理由とする不当な差別の解消並びに啓発等の推進を図ること」を明記しています。令和元年12月には「東京都性自認及び性的指向に関する基本計画」が策定されました。
国や宗教によっては、女性がスポーツをすることを禁じていたり、競技によってはユニフォームの規定がクリアできずに参加できないことがあるということも忘れてはならないと思います。
さて…この度の問題発言は、組織委員会の会長としても、ジェンダー平等の視点からも許されるものではありません。ジェンダー平等は、SDGsの目標5にもなっていて、世界中で取組が進められていますが、日本ではSDGsの達成度を引き下げている要素の一つといわれています。
すべての人が個人として尊重される社会でなければなりません。
ジェンダー平等を目指すことは、多様性を目指す第一歩だと思います。これからも、多様性とジェンダー平等の視点で施策をチェックしたいと思います。