2024夏の「気候セミナー」に参加しました
気候危機・自治体議員の会が主催する「気候セミナー」が衆議院第一議員会館で開催され、オンラインで参加しました。
8月1日(木)
★『気候危機とグリーンインフラ』
講師:熊本県立大学特別教授 島谷幸宏さん
自然が持つ力を防災や生物多様性に生かし、CO2吸収により2050年ゼロエミッションに貢献する「グリーンインフラ」について学びました。
「グリーンインフラ」とは、自然環境が有する多様な機能(洪水防御、水質浄化、生物の生息の場の提供、良好な景観形成、気温上昇の抑制等)を活用し、持続可能で魅力ある国土づくりや地域づくりを進めるものです。
サンゴ礁、マングローブ林、森林などの防災機能を持つ自然環境を保全し、自然環境を活用した防災・減災技術である田んぼダム、都市緑地、緩衝林、水害防備林などを活用することで、防災・減災のまちづくりをすすめます。
たとえば、
森林は、洪水を防ぐ、土砂の流れを減らす、二酸化炭素を蓄積する、酸素を作るなどの効果があります。
都市緑地は、雨水を浸透させて河川・下水道への流出を抑制させます。
さまざまなお話の中で、とても興味深く伺ったのが「雨庭」についてです。
「雨庭」は、地上に降った雨水を下水道に直接放流するのではなく、一時的に貯留し、ゆっくりと地中に浸透させる構造を持った植栽空間のことで、洪水を緩和します。
防災・減災の観点だけでなく、生物多様性や地下水の保全、景観の向上にもなります。
福生市では、大雨による多摩川の氾濫による洪水等の浸水想定区域は限定的ですが、台風や集中的な激しい雨のときには、道路などに水があふれている箇所があります。
雨水を側溝から下水道に流すだけでなく、「雨庭」を公共施設や公園に設置したり、個人宅や商業施設などへの設置を促したり、また、駐車場のすべてを舗装しないで雨水が浸透するように工夫することなど、コンクリートの「グレーインフラ」から「グリーンインフラ」へ転換を、身近なところから考えていくことが大切だと思いました。
8月2日(金)
★『エネルギー貧困とは何か』
講師:筑波大学教授 奥島真一郎さん
生活するうえで必要な冷暖房・給湯・調理用・家電利用などの家庭内エネルギーサービスを十分に享受できない状態にあることを「エネルギー貧困」と、概念的に定義されています。
また、エネルギー支出額が所得の10%を上回る世帯を「エネルギー貧困」と、測定可能な定義としています。
10%指標によるエネルギー貧困の状態は、2000年以降継続的に悪化し、東日本大震災後の2013年冬では、15.2%の世帯がエネルギー貧困となり、母子家庭と単身高齢者世帯が特に脆弱であることが示されました。
また、エネルギーコスト支払い負担の重さを示しているため、寒い気候の地域ほどエネルギー貧困率が高くなることを示しています。
しかし、住む地域の気候や家族構成、ライフスタイル等によって、基本的なエネルギーニーズは異なりますので、概念的に定義されたエネルギー貧困と10%指標によるエネルギー貧困は、必ずしも一致しないことがわかります。
10%指標ではなく、基本的エネルギーニーズを得られているかどうかで評価する直接評価法によると、全国では8%がエネルギー貧困で、北日本ではなく四国や九州が高くなっています。
国際エネルギー価格の上昇や円安の影響もあり、どちらの定義にあてはめても、エネルギー貧困・脆弱性の水準は非常に高くなっていることがわかります。
エネルギー脆弱な人々への配慮なしに脱炭素政策を導入し、そのための費用を固定買取価格制度(FIT)やカーボンプライシングなどにより一律に課すことは、気候正義(分配正義)の観点から問題があります。
すべての人々が基本的エネルギーを満たせる仕方で脱炭素社会への移行が進むことが望ましいのであって、包摂的なエネルギー転換、「だれ一人取り残さないエネルギー転換(移行)」が必要です。
エネルギー貧困世帯の特徴として、
・未だ基本的エネルギーニーズを満たせていない
・相対的に高炭素のエネルギーを利用している
・相対的に高くエネルギーを買っている
・省エネ行動実施率は高い
エネルギー貧困世帯が低炭素エネルギー(再生可能エネルギー)を安価で利用できるように改善し、気候変動対策とエネルギー貧困対策の両立をしていくことがとても重要であることがわかりました。
エネルギー貧困世帯に届く政策が必要で、住宅の断熱性の向上や低炭素エネルギーに関する知識の普及やモチベーションをあげること、気候危機に対する意識をかえることは、すぐにでも取り組めるのではないかと思いました。
また、その地域の特性や文化に合わせたエネルギー転換を考えていくことが大切だと思いました。
★『困窮者支援の現場からエネルギー貧困を考える』
NPO法人さんきゅうハウス 山本ようすけ(立川市議会議員)
熱中症患者が増加しています。
エアコンの普及率は、所得が低いほど低くなっています。
さらに、低収入ほど光熱費の割合は高く、エネルギー価格高騰などの影響が大きくなっています。
生活保護世帯で、気候変動のせいで生活が苦しいと自覚のある人は少ないかもしれませんが、
・支給額は増えていないのに光熱費や物価だけは上がったという印象を持っている
・住宅扶助費範囲内の家賃で断熱性に優れた住宅はあまりないのでは
・ほとんど賃貸なので太陽光パネル等はほぼナシ
・安価の賃貸物件だとプロパンガス(割高)のところも多い
・冬季加算(暖房代)はあるが、夏のほうが加算が必要ではないか
実際に見てきた事例として、リテラシーを身に付けていなかったり、家族関係が悪く家計の相談ができなかったり、必要以上の光熱費負担になっている家庭もあるとの報告でした。
制度や補助金等も重要ですが、地域コミュニティや社会とのつながりが大切だと思いました。
★『気候危機と⾷品ロス』
(株)office 3.11代表ジャーナリスト、
博⼠(栄養学)井出留美
食品ロスは、経済を回すための必要悪というのは本当か?
講師の自己紹介の後、こんな問いかけから講座がスタートしました。
京都市のあるスーパーでの実験
賞味期限ギリギリまで商品を店頭に置き販売したところ、
⾷品ロス10%減・売上5.7%増という結果となりました。
また、食品ロスが大きいとされる回転ずしチェーンで、「廻さない」対策をしたところ、売上は1.5倍という結果でした。
販売するパンの種類を減らす対策をしたパン屋では、廃棄ゼロ年商アップという結果でした。
食品ロスが減ると利益率は増加することがわかりました。
1世帯が1年間に捨てている食品を金額にすると、、、
食品ロスによる経済損失は年間72,000円にもなります。
(出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング 2023年12月)
食品ロスは、2000年以降減ってきてはいますが、その量のうち、家庭からの割合は外食や製造、卸、小売と比べて1番高く、2番目の製造の約2倍の量です。
⼀般的に「燃やせるごみ」の40%は⽣ごみです。その⽣ごみは重量の80%が⽔分。「燃やしにくいごみ」ということになります。そのため⾃治体によっては、せっかく分別回収したプラスチックごみを燃焼剤代わりに加えて焼却炉の温度を上げているところもあるそうです。
⽣ごみを燃やすことで気候変動に加担していることになります。
食品ロスから出る温室効果ガスは、自動車に匹敵するほどの量になるとのことでした。
自治体や企業等が食品ロスを減らす取り組みを進める中で、家庭からの食品ロスや生ごみの排出を減らすことがとても重要であることがわかりました。
食品の購入の仕方や商品の選び方、消費期限・賞味期限の正しい理解など、家庭で出来ることはまだまだたくさんあると思いました。
気候危機を自分事として考えることのできた講座でした。