『防災とコミュニティ』 全国都市問題会議に参加して・・・
大変遅くなりましたが、視察報告いたします。
全国都市問題会議に参加しました。
今回のテーマは「防災とコミュニティ」。
とても大事だとわかっていても、災害にどこまで備えれば十分なのかの判断は難しい。
コミュニティの形成も難しい。
今回の会議では、そういった難しくて固まった頭を解きほぐす議論がありました。
以下に報告いたします。
第81回全国都市問題会議報告
1、会議日程 令和元年11月7日(木)から8日(金)
2、会場 鹿児島県霧島市 霧島市国分体育館
3、主催 全国市長会、(公財)後藤・安田記念東京都市研究所、(公財)日本都市センター、霧島市
4、協賛 (公財)全国市長会館
5、テーマ 防災とコミュニティ
大きな災害が続き、市民の災害や防災への意識は高くなっている。自然災害そのものを避けることは難しいが、災害を事前に予防する力としなやかに災害を乗り越える力、すなわち「レジリエンス」を高めておくことが重要であると指摘されるようになってきた。これを高めるには、地域資源を把握し組み合わせることと、地域コミュニティの役割が重要だ。
すでに各自治体では防災やコミュニティに関する様々な取組がされているが、今回の会議では改めて「防災とコミュニティ」について議論する。
第1日目 11月7日(木)
- 基調講演 『篭島の歴史から学ぶ防災の知恵』
志學館大学人間関係学部 原口 泉
南九州は、洪水や台風、旱魃、火山噴火、地震、津波など災害が多く、厳しい環境で生活してきたが、その災害の影響である火山噴火からできた洞窟「ガマ」を、その時代ごとに利用してきた。また、江戸時代には「門割制度」という防災農法を取り入れ作物を作っていた。これは、「被害の均分」と「被害の分散」を目的としたもので、減災につながる知恵である。地域にあった防災・減災対策を考え、今後も、災害と環境についての教育を進めることが大事だと考える。
災害から生活を守ることだけでなく、歴史資料を守ることも大切だ。文書・記録書を特定の人だけが守るのではなく、公文書館を設けるなどして守っていく責任が、私たちにはあるだろう。 - 主報告 『霧島市の防災の取組―火山防災―』
霧島市長 中重 真一
平成22年9月、環霧島地域が「霧島ジオパーク」として日本ジオパークに認定され、現在は世界ジオパークの認定に向け取り組んでいる。鹿児島県は全国有数の火山活動が活発な地域で、噴火による災害にも多く見舞われている。
平成23年の新燃岳噴火では、直ちに災害対策本部を立ち上げ、全庁を挙げて24時間体制で対応した。住民のみならず観光客や登山者の避難誘導など、これまでに経験したことのない対策を行った。その後、火山活動は収まったように見えていたが、平成30年には連続的な爆発的噴火が起こった。平成23年の噴火では、正確な情報が伝わらず観光客が激減した教訓から、積極的に現地の状況についての情報発信に努めた結果、宿泊のキャンセル数は少なくなった。
霧島山を取り巻く5市2町で構成する環霧島会議では、相互応援協定の締結や「霧島山火山防災マップ」の作成・配布し、広域連携による防災対策を推進している。また、近隣自治体と気象台、専門家による「霧島山火山防災協議会」では、火山活動状況に関する情報共有等を行っている。
本市は、火山活動による市民生活や経済活動に大きな影響があるが、それによって温泉や景観等の恩恵も受けている。霧島ジオパークの、霧島山の地形と噴火の歴史、火山の仕組み等を知ってもらう取り組みを進め、それを通して市民の火山防災に関する意識の向上を図っている。 - 一般報告『災害とコミュニティ:地域から地域防災力強化への答えを出すために』
尚絅学院大学人文社会学群長 田中 重好
コミュニティという概念を正しく理解するには、①社会関係、社会集団、地域的アイデンティティの3つの要素からなる境界を持った住民の塊である②さまざまな地域の総称である③重層的な構造を持っている④個性的であり多様だ⑤テーマごとに考えることができる⑥行政から「つくることができない」もの、自生的な存在だ、ということを理解する必要がある。
東日本大震災からもわかるように、避難は個人の行動のようであるがコミュニティが重要で、集合的、組織的行動である。個人の防災能力とコミュニティの防災能力を伸ばしあうことが必要。自治体側から見れば、市域のコミュニティの状況を正しく認識し、「防災主流化」と「生活コミュニティ」を向上させることが重要だ。
地域防災力の向上のためには、それぞれのコミュニティが「地域ごとに答えを出す」という自覚からスタートする。 - 一般報告『平成30年7月豪雨災害における広島市の対応と取組について』
広島県広島市長 松井 一實
平成26年の豪雨災害以降、災害に対応する組織・体制の強化を図っていた。強化の内容は、注意体制と警戒体制を新設し、ハード面として避難に関する判断や指示の前提となる情報収集するための防災情報共有システムを構築し、柔軟かつ迅速に動けるようなソフト面の整備を行った。平成30年7月に発生した台風7号による災害では、最大145施設の避難所を開設し、最大避難者数は8,423人であったが、対策を講じていたため、早い段階から整理された情報を得ることができ、次の一手を見通した判断ができた。
生活再建の取組では現場最優先の意識のもと、「例外」を恐れず進める必要がある。首長がアンテナを張り、職員にも現場最優先であると姿勢を示すことが必要で、その決断ができるかがポイントだ。そうすることで、住民の理解につながる。この時には市長判断で避難所にスポットクーラーを設置した。
平成26年の災害では、国の補助制度を活用したが、がれき混入の度合いによって環境省と国交省のどちらかを選ぶ等、時間もかかり使いにくかった。この災害では、制度改正を国に掛け合い、回収後にがれきを量るなどして対応できた。
これまで取り組んできた防災リーダー養成を引き続き行うことに加え、地域コミュニティにおいての実効性ある避難訓練を実施する。小学生の防災キャンプ、マンネリ化せず実践的な防災訓練の実施、自主防災リーダーの防災研修、旅行車や通勤・通学者用の避難誘導アプリの導入等、地域の防災力の強化を図っていく。 - 一般報告『火山災害と防災』
防災科学技術研究所火山研究推進センター長 中田 節也
日本は世界でも有数の火山監視・観測体制を誇っているが、地震の予測が困難であるように火山噴火の予測も簡単ではない。
現在、防災ブームと言っていいほど多くの防災ビジネスがあるが、本当に住民のためになっているか、住民置き去りになってはいないか。全国1,741自治体の14%に当たる247の自治体がジオパークに直接的に関係、または興味を示しているとされている。防災、コミュニティ、地域教育・郷土愛、ツーリズム等にジオパークを活用してほしい。
近い将来、これまで経験したことがないような火山噴火が到来する。ジオパークにおける防災活動のポイントは、日ごろ恩恵を被っている火山という自然を認識し、地域の魅力を再確認しながら、地域を災害から守るために地域構成員全員がかかわり作り上げるジオパークの仕組みを活用することによって火山防災への取組が可能になるだろう。
第2日目 11月 8日(金)パネルディスカッション
コーディネータ 追手門学院大学地域創造学部地域創造学科長・教授 田中 正人
「防災とコミュニティ」
都市計画法が施行されてから100年経つ。都市計画は市民の生命と財産を守るためのものだが、災害を大きくしているのではないか。
1995年阪神淡路大震災以降の災害をみると、自然災害は多様化・激甚化・広域化している。災害リスクは複雑化・不可視化・個人化している。地域コミュニティは希薄化・分節化・断片化している。地域コミュニティの連携、統合、再構築をいかに図っていくか。地域の中でも温度差があるのは課題だが、地域課題を住民がともに考え解決していくことが重要だ。
☆専修大学人間科学部教授 大矢根 淳
「コミュニティ・レジリエンスの醸成のカギをさぐって~結果防災(活動・組織)の掘り起こし~」
例えば、桜の花見に土手に人が多く集まることで堤防が踏み固められ防災力が上がったり、街角にフラワーポットを置くことで水やり等の人目があり防犯になったりする。そこには、事前復興とコミュニケーションが醸成され、地域への愛着が生まれる。
防災マップには主語が明確に記されているわけではない。防災の主体は誰なのか、防災マップに記載されている情報を地域住民がどう使うのか、マニュアルを超えて踏み込むことも大事だ。そのためには、事前復興プラス地域防災計画を考えたレジリエンスの醸成が重要だ。
☆香川大学地域強靭化研究センター特命准教授 磯打 千雅子
「目標と限界を共有する戦略的な連携計画~地域継続計画DCP~」
戦略的な連携計画であるDCP(地域住民の生命や財産、地域経済を経済、文化や環境を守るための地域継続計画)の概念や事例からBCP(事業継続計画)と地区防災計画制度の関係性考え、多様な主体の連携が地域にもたらす効能は大きい。自助・共助・公助の三分論が定着すると、壁や役割の狭間ができてしまう。その隙間を埋めるような連携が必要だ。
甚大な災害で地方自治体そのものが機能不全になる可能性がある。地域継続の担い手(地域住民)の伴走者(地方自治体)が機能しなくなってしまうことを考え、DCPの策定・実践により地域一帯を強い社会構造に変えていくことが急務だ。
☆霧島市国分野口地区自治公民館長 持留 憲治
「地域コミュニティの強化を目指して」
地域住民の防災に対する意識が高くなっているが、地域防災の担い手不足に悩む地域もあり、人材育成の仕組みが重要になっている。県の事業である「地域防災リーダー養成講座」を活用し担い手づくりをしている。
令和元年度は、防災に対する住民意識向上の図るための基礎データを得る目的で、全世帯に対し「自助活動アンケート」を実施した。回収率は75%、自助活動の課題を概ね把握できた。
向こう三軒両隣の助け合い単位活動が実践で生かせるような地域づくりと、企業と避難所提供に関する協定等を締結するなど、さらに安心安全で住みやすい地域づくりを地域住民全体で進めたい。
☆静岡県三島市長 豊岡 武士
「安全・安心なまち三島を目指して~地域防災とコミュニティ~」
市内14の小学校区において地域コミュニティ協議会・連絡会が組織され、防災対策をはじめとする様々な地域の課題が話し合われている。地域住民が主体となって考え課題解決に取り組み「ご近所力」を高めている。
東日本大震災の教訓を整理し、女性の視点での防災対策意見交換会や避難所運営会議を通じての市民の意見を反映し、「避難所運営基本マニュアル」を作成した。また、避難所開設の携わるすべての人が情報共有できるように「避難所開設アクションシート」と「レイアウト図」をつくり、体育館に掲示できるようにしている。他にも女性に配慮するためのチェックシートやグッズをひとまとめにしたものを各避難所に設置している。
防災の担い手確保・育成の取組として、小中学生によるジュニアレスキュー隊の結成や中高生のチャリンコ隊がある。本市は町会・自治会の活動が活発で、共助の意識の高い住民が多い。今後も「チーム三島」で防災対策に取り組む。
☆和歌山県海南市長 神出 政已
「防災活動を通じた地域との連携~更なる信頼関係の構築に向けて~」
南海トラフ地震に備え、平成29年には庁舎を高台へ移転し防災機能の充実を図った。また、沿岸部では津波対策工事を行うなど対策を進めている。さらに、地区ごとに災害リスクや早期非難の重要性について周知している。
東日本大震災を契機に、地区ごとに行っていた避難訓練を「市民一斉訓練」とし、行政との連携強化を図った。毎年住民の4割が参加している。重点地区訓練では避難行動要配慮者への支援方法を学んだり、避難路を歩いて確認するなどしている。
行政が地域と連携して行いう防災活動は、地域の意識を高めるだけでなく、密接な信頼関係を築くことにもつながる。更なる信頼関係構築に努める。
所感
近年、大きな災害が続いている。地震だけでなく、台風や豪雨などによる水害も多く発生している。令和元年の台風第19号では、福生市でも初めての避難所開設となった。市の対応についての説明等もあり、今後に向けての更なる対策が検討されている。議会においても議会改革に関する協議会で、災害時の議会の行動に関する方針等を検討することになった。行政、議会、市民と連携・協力して災害に備えた対策を進めるうえで、この度の会議の内容はとても参考になった。
「防災とコミュニティ」というテーマであったが、これまでの大規模災害からも災害時においてのコミュニティの大切さは認識されている。しかし、全国的に地域のつながりが薄れてきているという現実もある。この会議の中では、三島市の「ご近所力」を高める取り組みに注目した。三島市の地域コミュニティ協議会・連絡会は、防災だけでなく地域の様々な課題を議論する場となっているようだ。地域住民が顔を合わせ議論することを当たり前にしておくことは、災害時の困難を乗り越えるために必要なスキルを身に着けていくことになると考える。他にも女性の視点での避難所運営や、小学生から高校生までの様々な世代が防災について自分事として考えられるような取り組みがされていることは、地域全体の防災力を上げていると感じた。
個人の防災スキルを高めたり、地域の防災意識を高めたり、それぞれが地域の歴史や経験で培ってきたものや地形等を考え、それぞれに合った取り組みがされていた。また、防災主流化という考え方は、今後の自治体運営において重要になってくると感じた。今回の会議で得たものを、今後の活動や政策提案等につなげていきたい。